The Radio Dept. / Lesser Matters

Genre: Dream PopSwedish PopArtist: The Radio Dept.

この、今にして思えば歴史を変えるようなリリースだった、2003年のThe Radio Dept.の1stアルバムは、もちろんかなりの衝撃だったものの、それまでのLabrador Recordsを聴いていた人にとっては、そこまでの違和感は感じないものだったと思います。私が最初にこの手の音を聴いたのは、実はThe Radio Dept.ではなく、Club 8のEP『Saturday Night Engine』でした。「シューゲイザー的なノイズと、スウェーデン独特のポップなメロディと、抑えの効いた曲調」というものを、ヨハン・アンゲルゴードは、The Radio Dept.ほどではないものの、テイストとしては持ち込んでいました。このEPのタイトル曲は、それまでのClub 8を覆すような音作りだったので印象深く、同じ2003年に出た、ヨハンのサイドプロジェクトであるThe Legendsの1stアルバムにつながっていったのだと感じていました。

しかし、経緯を探ってみると、The Radio Dept.の結成は1995年となっており、サウンドメイキングの点では、彼らが元祖で、もしかすると逆の流れだった可能性もあります。Labradorと契約して初めてのライブのサポートがThe Legendsだったというのも何かを示唆していますが、どちらが先かというようなことは判断も難しく、また決めるようなことでもありません。私の印象としては、Tribecaなどで見られた、ダウナーで切なく、ややソフトなノイジーサウンドが進化したもの、というように聞こえていたと思います。

ただ、明らかに彼らが卓越していたのは、ポップなメロディであり、陰鬱でもなく、明るくもない、繊細で静謐な、シネマティックなデイドリームといった印象の世界観でした。まさに後に、映画『マリー・アントワネット』での「Keen on Boys」の楽曲使用で世界的なブレイクとなるわけですが、それも納得の、アルバムとしての世界観の完成度だと思います。

当時は確かにマイブラやジザメリをメンションする記事が多かったと記憶していますが、最大の違いは、マイブラほど破壊的ではないし、ジザメリほど大胆ではなく、とても繊細であることです。ノイズへのアプローチが異なると思います。彼らにとってのノイズは世界を表現するためのツールであり、世界を破壊するためにノイズを出しているのではない、という感じでしょうか。それが聴き手には心地よく、まったく不快感のない、耳触りの良いノイズが中毒性を持って入ってきます。

また、これを解体すると、UKのシューゲイザーがメロディ大国のスウェーデンで化学反応を起こし、The Radio Dept.という新しいものが生まれた。それが映画を通じて世界に広まり、おそらくは海を渡り、2010年以降のアメリカのドリームポップムーブメント(Wild Nothing、The Drums、Beach Fossilsなどから始まる)に繋がっていったのかもしれません。アメリカも屈指のメロディ大国ですので、シューゲイザーという文化をメロディ大国が再解釈したものがドリームポップと言えるのかもしれませんし、そうだとしたら、The Radio Dept.やLabradorのバンドたちは、その橋渡しをした重要な役割だったのかもしれません。もちろん、その他のさまざまな影響が複雑に結びついていることは言うまでもありません。

アルバムの内容としては通して聴くに値するクオリティですが、2曲目の「Where Damage Isn’t Already Done」、3曲目の「Keen on Boys」、8曲目の「1995」、9曲目の「Against the Tide」などが個人的なハイライトです。(Haru)

Influences

Pet Shop Boys / Saint Etienne / Prefab Sprout / The Avalanches(いずれも本人の発言から)

Release Info

  • Year2003
  • LabelLabrador
  • FormatLP

SS Report

概要

スウェーデンのルンドのバンド、The Radio Dept. の1作目のアルバムです。2003年3月に Labrador からリリースされました。全13曲、約43分です。

のちにアメリカでは Shelflife から、イギリスでは XL Recordings からも発売されました。イギリスで広く知られたのは2004年です。

中心は Johan Duncanson と Martin Larsson の2人です。Larsson はのちに Martin Carlberg と名乗っています。

制作

プロデュースは Johan Duncanson と Martin Larsson です。録音は主に Duncanson の自宅で行われました。

Duncanson によると、ふつうのパソコンで録音し、ドラムマシンの打ち込みから、ギター、ベース、キーボードの演奏、ミックスまで、自分たちで行ったそうです。

バンド名は、ルンドにあった、ガソリンスタンドを転用したラジオ修理店の名前から来ています。2001年末に音楽誌のサンプラー CD に収録され、それを聴いた Labrador が契約したとされています。

録音の時期は確認できていません。

シングル・代表曲

  • Where Damage Isn’t Already Done(2003年のシングル)
  • Why Won’t You Talk About It?(2004年5月。NME の Single of the Week)
  • Ewan(2004年12月)
  • 1995 / Keen on Boys(レビューでよく挙がる曲。「Keen on Boys」は、のちに Sofia Coppola の映画『Marie Antoinette』で使われました)

本人の発言

このアルバムに直接触れた発言は多くありません。歌詞のテーマやタイトルの意味についての発言は、見つかりませんでした。

  • Johan Duncanson は、このアルバムとその前の EP のころ、Martin と自分は長くノイジーな録音に傾倒していた、と話しています。ノイズとメロディが同居するレコードを聴きたいのに見つからなかったので、自分たちで作ったそうです。(Labrador 関連の掲載インタビュー、2005年)
  • Duncanson は、ふつうのバンドとは順序が逆だと話しています。まず自宅録音で曲を作り、あとからライブで再現しようとするそうです。(同上)
  • Duncanson は影響源として、The Avalanches、Prefab Sprout、Pet Shop Boys、Saint Etienne を挙げています。(同上)
  • Duncanson は、次の EP でノイズと歪みから離れたのは、変化したかったことと、もっとクリーンなものを作りたかったからだと説明しています。(同上)
  • Martin Larsson は、曲が「曲らしく」なりすぎたと感じたら、意図的に引き下げると話しています。音をあえて濁らせる方針だそうです。(The Line of Best Fit、2011年)
  • Duncanson は、壊れる寸前の音や、手が届きそうで届かない録音に、詩的な価値を感じると話しています。ローファイは、インディーらしく見せるためではないそうです。(The Line of Best Fit、2011年)
  • 2人は、このアルバムのあとの『Pet Grief』では、意図的に正反対のクリーンな音を目指したと振り返っています。(Rawkblog、2011年)
  • Duncanson は、自分たちは内気で、音楽とアートワークで伝えるほうを好み、インタビューは苦手だと話しています。(Consequence、2011年)

評価

  • NME(Barry Nicolson):「小さな古典」と評価しました。The Jesus and Mary Chain、Cocteau Twins、My Bloody Valentine の流れを、敬意をもって消化しているとしています。留保は、すぐには効かず、聴き込みが必要な点です。
  • NME の年間ベスト(2004年):アルバム部門で9位に選びました。誰もが大事にしている秘密のような存在で、ほとんど気づかれないままリストに入った、という趣旨の寸評が付いています。
  • Drowned in Sound(Gareth Dobson、2004年):言葉では美しさを伝えきれない、と絶賛しています。重ねたギターと控えめなボーカルの魅力を挙げ、留保はありません。
  • PopMatters(2003年):「1995」と「Ewan」を高く評価しています。一方で、停滞する曲があり、荒々しさが足りないとも書いています。良作だが、熱狂するほどではないという結論です。
  • The Line of Best Fit(Luke Grundy、2011年の回顧):意図的に曇らせた音と、耳に残るメロディの組み合わせが、バンドの美学を確立したとしています。
  • Stomp and Stammer(回顧):特にヨーロッパで、インディーポップの基準点になったと評しています。
  • FLOOD(Tim Gagnon、2020年の回顧):卒業後の不安や通勤といった主題を、シューゲイズの質感とローファイの感覚で捉えたデビュー作、と位置づけています。

出典

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