このTeenage Fanclubの歴史的名盤セカンドアルバム(『The King』を含めるとサード)『Bandwagonesque』は、私の中学一年の時のリリースだったので、私が聴いたのはその数年後の高校生の頃でした。その時の印象は、ただただ「ダサい、田舎くさい、古い」……という身も蓋もないものでした。90年代はサウンドの変化も激しかったので、このややくぐもったディストーションギターが、80年代の香りを引きずっているように感じられ、やや古く感じたのだと思います。当時の私は、よりクリアで尖ったギターサウンドを追い求めていました。そのような出会いにもかかわらず、Teenage Fanclubにハマるに至ったのは、後のフォースアルバム『Grand Prix』との出会いがきっかけでした。サウンドもクリアでモダンになり、「About You」「Sparky’s Dream」に撃ち抜かれ、「Neil Jung」で泣き、それをきっかけにまた『Bandwagonesque』を聴き直したところ、なぜダサいなどと思ったのかと自分を責めたことを思い出します。
なんと言っても「The Concept」のディストーションギター。彼女はいつもデニムを履いていて、ステイタス・クオーのレコードを買う、ミーハーな女の子、きっと軽い気持ちで付いてきているから、そのように扱ってしまった。結果的には傷つけてしまった。傷つけたくはなかったのに。というような感じでしょうか。バンドとそれを取り巻く女の子のいろいろな状況が想像されます。本当にその子を好きなのか、それともそれは一時の盛り上がりだけだったのか、そのような切なさを乗せて奏でられるディストーションギターが胸に染み込みます。
「What You Do to Me」「Metal Baby」「I Don’t Know」のような、パワーポップの歴史を紡ぐような美メロディの曲たちが群れを成し、また「December」や「Guiding Star」のような、しっとりと聴かせるバラードが脇を固めています。それと相反するように、混沌を表すように折り込まれたノイジーなインストの「Satan」や、突如懐かしい感じのするアウトロ「Is This Music?」での締めくくりなど、いい意味で油断できない展開がとても楽しく感じます。
アルバムタイトルである『Bandwagonesque』は、いわゆるバンドワゴン効果、流行に流されてそれが良いと思ってしまうこと、をやや皮肉的にとらえてつけられているものだと思われますが、それを象徴するかのようにジャケット中央にどんと置かれた黄色いドル袋。この袋の中には、流行っているから良いのか、良いから流行ったのか、また、本当に好きなのか、流行っているから好きなのか、もっと言えば音楽的に流行(成功)を追い求める姿勢は正しいのか、そのような漠然とした問いがたくさん詰まっているように思えます。この印象的なモチーフは、その後、私の中にも強くイメージとして残っていて、この後に企画したDJイベントで、Teenage Fanclub特集の時に、巨大な黄色いドル袋を作ったことは良い思い出です(確か誰かにプレゼントしたけど、持って帰れたのだろうか)。
また、2020年代前半から続く、グランジゲイザーなどのファズブームのバンドの楽曲を聴いていると、この頃のTeenage Fanclubの象徴でもあるディストーションギター(一番はファーストアルバムの「Everything Flows」かもしれませんが)を、時折連想させられることがあります。主流はスマパン系のヘヴィなファズが多いように感じますが、メロディ寄りのファズ・ギターポップに目を向けると、どうしてもTeenage Fanclubの存在が浮かび、少なからず影響を与えているように思います。例えば、Hotline TNTの2025年のアルバム『Raspberry Moon』の1曲目「Was I Wrong?」などは、Teenage Fanclubから何かのエッセンスを汲み取っていそうですし、同じく8曲目「Candle」のMVに出てくる車に、例のドル袋のステッカーが貼ってあるのを私は見逃しませんでした。ディストーションギターのサウンドは、何か切なく苦しいものを抱えている人にとって、それを解放してくれるような作用があるのでしょうか。2020年代にファズが再燃したのも、それが原因なのかもしれません。
2005年にサマソニのSONIC STAGEで見たTeenage Fanclubのライブでは、「The Concept」でフロア爆発の大合唱。イメージ的には、「サライ」くらいの大団円を迎えた時のことは今でも忘れません。もう『Man-Made』の頃のティーンエイジでしたので、メンバーもフロアの異常な熱狂にやや驚いている様子でした。このサマソニは、同じSONIC STAGEに出演していたDeath Cab for Cutieのベン・ギバードとの初対面の場であったと、後年に知りました。意気投合し、トリのThe La’sのアクトを一緒に見ていたというエピソードもあります。(「There She Goes」を2回演った、あの時にその二人が一緒に見ていたとは……)ベン・ギバードが昔からTeenage Fanclubのファンであったことにも、2017年に『Bandwagonesque』の完全カバーアルバムをリリースしたことにも驚きました。そのきっかけがそのサマソニであったのであれば、なんとも感慨深いことです。そういえば、このグラスゴー勢とUSインディーシーンは相思相愛で、特別なつながりもあることを思えば、このDeath Cab for Cutie × Teenage Fanclubという組み合わせは、驚くことではなかったのかもしれません。事実、私はどちらのバンドも好きなわけですから。
2026年、スピッツが主催したロク漫祭で、もう一度見ることが出来ましたが、ジェラルド・ラヴ脱退後で、かつ全盛期の勢いはなくとも、円熟味の増した「The Concept」もまた素晴らしいものでした。曲の終焉に向かうギターが鳴り響くアウトロは胸に来るものがありましたし、まぎれもないTeenage Fanclubを感じました。間違いなく「The Concept」は、私のティーンエイジの頃の大切なアンセムの一つでしたが、なんとそれは40代になっても変わりませんでした。everythingはflowするけど、flowしないものも心の中にはあるようです。(Haru)
Influences
Big Star / Sonic Youth / Orange Juice(いずれも本人の発言から)
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Release Info
- Year1991
- LabelCreation / DGC
- FormatLP
SS Report
概要
スコットランドのグラスゴーのバンド、Teenage Fanclub のアルバムです。イギリスでは1991年11月4日に Creation Records から、アメリカでは同年11月19日に DGC からリリースされました。全12曲、約43分です。
『A Catholic Education』(1990年)に続く作品です。同じ時期に録られた『The King』を数えるかどうかで、2作目とも3作目とも書かれます。
メンバーは Norman Blake(ボーカル、ギター)、Gerard Love(ボーカル、ベース)、Raymond McGinley(ギター、ボーカル)、Brendan O’Hare(ドラム)です。
制作
録音は1991年の4月から5月にかけて、リバプールの Amazon Studios で行われました。プロデュースは Don Fleming、Paul Chisholm、そしてバンド自身です。
Fleming とは、1991年3月にニューヨークの CBGB で出会ったそうです。Fleming は「今ハーモニーをやっているバンドはいない」と言って、ハーモニーを磨くことを勧めました。この話は複数のインタビューで一致しています。
Blake によると、Geffen と契約する前に録音は終わっていて、歌詞の多くはスタジオで書いたそうです。余ったスタジオ時間では『The King』が録音されました。
ジャケットはドル記号の付いた金袋の絵です。この図柄を商標登録していた Kiss の Gene Simmons が Geffen に連絡し、レーベルが小切手を送ったという話が、Simmons の回想録にあるそうです。(Wikipedia 経由で確認)
シングル・代表曲
- Star Sign(1991年8月。Gerard Love の曲。アメリカの Modern Rock チャートで4位)
- The Concept(1991年10月。Norman Blake の曲)
- What You Do to Me(1992年1月)
本人の発言
- Norman Blake は、それ以前は Sonic Youth のようなノイジーなアメリカのポップを真似ようとしていた、と話しています。Fleming がハーモニーに寄せるよう促したそうです。Fleming は細かく手を出さず、方向だけを示すプロデューサーだったと振り返っています。(Vice)
- Blake は、Fleming から「ほかに誰もハーモニーをやっていないのだから、目立つためにそこを磨け」と言われたそうです。(The Skinny、2016年)
- Blake は Big Star の影響を認めつつ、それは数ある影響のひとつだと話しています。記者がそこにこだわったのは、いちばん無名なバンドだったからだろう、とも言っています。(SPIN、2015年)
- 「The Concept」の歌詞は、録音の20分ほど前に作ったそうです。冒頭の数行と、Status Quo の名前を出すアイデアが先にあったと Blake は語っています。(SPIN、2015年)
- Blake は、SPIN の年間1位に選ばれたことに驚いたと話しています。レビューを担当した Steven Daly が、自分たちの好きなグラスゴーのバンド Orange Juice の元ドラマーだった縁が大きいと見ているそうです。(SPIN、2015年)
- Raymond McGinley は、Saturday Night Live への出演や年間1位は、周りには大事件に見えたが、自分たちには「やったことのひとつ」だったと振り返っています。ビデオ撮影に半端な気持ちで臨んだことは後悔しているそうです。(SPIN、2015年)
- Gerard Love は、アメリカではこのアルバムのバンドと見られ、イギリスでは後の作品のほうが好まれる、と話しています。(SPIN、2015年)
- Blake は、90年代はブリットポップよりも、Yo La Tengo や Sonic Youth などアメリカのインディー勢に親しみを感じていたそうです。(SPIN、2015年)
- Love は、ハーモニーを重ねると音が柔らかくなる、と話しています。Blake は、複数人が曲を書くので一人の負担が軽かったこと、作曲者が別でも印税は均等に分けたことを語っています。(Uncut、2018年)
- Blake は、イギリスでは Big Star に似ているとけなされた、と振り返っています。自分はロマンチックなラブソングの人間だ、とも話しています。(Lyndsey Parker の記事、2016年)
評価
- SPIN(1991年):年間ベストアルバムの1位に選びました。Nirvana『Nevermind』や R.E.M.『Out of Time』を抑えての1位として、今もよく語られます。
- SPIN(Andrew Unterberger、2015年):影響力や歴史的な重要性では『Nevermind』などに及ばないと認めたうえで、フックに満ちた愛すべき作品だと擁護しています。
- 発売当時のイギリス:Big Star の焼き直しだという批判があったと、Blake 本人が証言しています。
- Clash(Robin Murray、2011年):『Nevermind』より上だと主張しています。ユーモア、ギターリフ、影響源の幅広さを挙げ、Yuck や Veronica Falls など後のバンドへの影響にも触れています。
- Guitar.com(Gary Walker、2021年):最高水準の古典的なソングライティングと、卓越したギター演奏だと評しています。メロディックなパワーポップと、磨きすぎない生々しさが同居しているとしています。
- The Spectator(Rod Liddle、2018年の再発評):The Byrds や Alex Chilton を3分に圧縮したパワーポップのひな形だと評価しています。ただし、同時に再発された別の2作のほうをより高く買っていて、本作は到達点ではなく出発点という扱いです。
- The Fire Note(Scot Lade、2013年):グランジ全盛期に逆らったパワーポップの傑作としつつ、バンドはこの魔法を二度と取り戻せなかったとも書いています。
- リスト:NME「500 Greatest Albums」(2013年)に選ばれています。(Wikipedia 経由で確認)
- 周辺の評価:Death Cab for Cutie の Ben Gibbard は、2017年にこのアルバムを全曲カバーした作品を出しています。(Wikipedia 経由で確認)






