Bedhead / WhatFunLifeWas

Genre: SlowcoreUS IndieArtist: Bedhead

このアルバムがリリースされた当時、1990年代半ばには、私はいわゆるスロウコア的な音楽には興味がなかったので、スロウコアと呼ばれる一連のアーティストを聴き始めたのは、ここ数年、2020年代に入ってからでした。特にこのBedheadとDusterは、中でも群を抜いて好きになりました。ただ、このBedheadというアーティストを、スロウコアというラベルで安易に分類するのは本人の発言にもあるように良くないのかもしれません。例えばスロウコアの有名なプレイリストがあったとして、ずっと流して聴いていると、BedheadとDusterは飛びぬけて耳に残り、印象が強く、ついアーティストのプレイリストに移動して聴きたいと思ってしまうような、それくらいそれぞれの曲に存在感が感じられます。単純な疑問として、どのような点で彼らは他と違うのか、他のスロウコアのアーティストとの違いは何なのでしょうか。

一つは、彼らはただ単純に「遅い」という特色の曲を出しているのではなくて、立派に力強く、かなりエモーショナルです。聴いた後の感触は、スロウコアというよりミッドウェスト・エモを聴いたときに近いです(Bedheadがミッドウェスト・エモだと言っているのではありません)。それくらいの高揚感があります。それと同時にシンプルさとこだわり抜いたサウンドにはスケール感があり、独特の世界観を構築しています。ありそうで他にないという点で、Bedheadはアーティストではなく、ジャンル名の域に達しています。

二つ目ですが、ここまでのシンプルさでこのインパクトを残すのはとても不思議なことで、難しくもあると思います。インタビューなどを読んで驚いたのは、彼らが目指していた完成形のイメージが、理論や計算から導かれたものではなかったということです。売れるように作るとか、流行っている音を取り入れるとかではなく、あくまでも自分たちの感覚で「これだ」と思える理想形を追い求めていた。そして、その理想形に近づけるために、曲を何度も練り直し、納得できるまで録り直すような、とても粘り強く緻密な作り込みをしていたようです。感覚で決めた理想を、緻密に組み上げる。この感性と緻密さの絶妙なバランスが、この不思議なBedhead現象を可能にしたのかもしれません。

三つ目として、当時の音楽シーンはグランジやオルタナティブロックの全盛だったはずですが、それらに対するアンチテーゼとしての強いアティテュードが、この静かな音楽から明確に感じられるからかもしれません。皆がフロアでのたうち回り、ギターをかき鳴らしシャウトしていたようなシーンにおいて、この凛々しくも静かなビートは、逆に最もパンクで反体制的だったと推測されます。そうではないという立ち位置を静かに貫くことは、とても決意のいることです。静かなことが体制的な時にノイジーな音楽をやる方が、まだ容易いでしょう。皆が激しくなっている時に、そしてそれが求められている時に、このスタイルを貫くのは予想よりはるかに難しいと思います。そこに、彼らのポリシーと正直さ、求めるものの明確さが感じられます。このある意味での強さといったものが、それとは逆の静かなアプローチによって、こちらに届けられる。これがBedheadが他のアーティストの楽曲とも一線を画した位置にいる理由ではないかと思います。

また、インタビューでも「ありのままでいること」への言及がありましたが、流行やビジネスへの誘惑に惑わされずにそれをやり続けたことが、近年のNumero Groupからの再リリースにも繋がったのかもしれません。エモーショナルな完璧主義者、静かな反体制、過剰なシンプルさ。この「人間にしかできない、相反する概念を網羅したこと」が、奥深さを私たちに伝えているのかもしれません。Bedhead=寝癖というバンド名も、ある意味飾らなさ、恥ずかしい自分をありのまま、というイメージにつながります。時代的にも当時はこのような音楽は非常にマイナーであり、聴く人も限られていたと思います。近年は、リスナーもサブスクやYouTubeの一般化により、幅広い音楽に触れる機会が増えたと思いますが、その影響もあり、現在において再評価され、神格化されたといっても過言ではないこの現象を考えると、ポリシーを持ってありのままやりきることの大切さも感じさせられます。私も明日からは、寝癖を直すのはやめて、ありのままの姿で社会と向き合う必要があるのかもしれません。

全曲好きですが、特に「Haywire」「Bedside Table」「Powder」「Living Well」「Wind Down」あたりは、ずっと聴き続けたい、心の名曲殿堂入りです。(Haru)

Influences

Joy Division(本人の発言から)/ Talk Talk(Wikipedia 経由。もとの発言は未確認)

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Release Info

  • Year1994
  • LabelTrance Syndicate
  • FormatLP

SS Report

概要

テキサスのバンド、Bedhead の1作目のアルバムです。1994年4月4日に Trance Syndicate からリリースされました。全11曲、約49分です。CD、LP、カセットで発売されました。

メンバーは Matt Kadane と Bubba Kadane の兄弟(ともにギター、ボーカル)、Tench Coxe(ギター)、Kris Wheat(ベース)、Trini Martinez(ドラム)です。曲はすべて Kadane 兄弟が書いています。

バンドの公式サイトは、1992年1月にオースティンで結成、1998年8月に解散としています。ダラスのバンドとして紹介されることも多いです。

制作

録音とミックスは、1993年の6月から9月にかけて行われました。16トラックでの録音で、クレジットは「Bedhead と Paul Quigg による録音・ミックス」です。スタジオ名は確認できていません。

Austin Chronicle の記事によると、マルチトラックのスタジオでライブ録音されたそうです。また、別テイクになりそうな録音は意図的に上書きして消していたため、のちのボックスセットには目立った未発表音源がありません。

2001年に Touch and Go から、2014年に Numero Group からリマスター盤が再発されています。Numero Group の盤は、ボックスセット『1992–1998』にも収められました。

シングル・代表曲

  • Bedside Table / Living Well(1992年の7インチ。2曲ともアルバムに収録)
  • Liferaft(冒頭の曲。3本のギターが重なる曲として挙げられます)
  • Crushing / Powder(レビューでよく挙がる曲)

本人の発言

このアルバムそのものについての発言は、ほとんど見つかりませんでした。以下は、バンドのやり方や「スロウコア」という呼び名についての発言です。

  • Matt Kadane は、ギター、ベース、ドラムで質感のある音楽を作りたかったと話しています。和音をひとつの楽器で鳴らすのではなく、複数の楽器で組み立てたかったそうです。(Austin Chronicle、1998年)
  • Bubba Kadane は「ミニマリズム」という言い方に異を唱えています。自分たちが目指すのは簡潔さと繊細さで、余計なものを置かないことだと説明しています。(Austin Chronicle、1998年)
  • Bubba は、当時はダラスにもオースティンにも自分たちのようなバンドはいなかった、と振り返っています。(Austin Chronicle、1998年)
  • Bubba は、遅さは狙ったものではないと話しています。そう弾いたほうが曲がよく聞こえ、音と音のあいだの空間が増えたからだそうです。(Drowned in Sound、2009年)
  • Matt は「スロウコア」という呼び名について、単にテンポのことなら窮屈だが、曲の組み立ての慎重さや、静けさと轟音の両方を大事にする姿勢を含むなら受け入れられる、と話しています。(Drowned in Sound、2009年)
  • 一方で Matt は、2023年の The Guardian の記事では、この呼び名を侮辱のように感じ、遅さを自分たちの本質と考えたことはないと述べたとされています。時期によって言い方が違います。(Wikipedia 経由で確認。記事本文は未確認)
  • Matt は、作品を「秘密めいた精神」と結びつけて考えていて、聴く体験を邪魔しないよう自己宣伝を避けていたそうです。初期の録音を聴き返すと、当時の落ち込んだ時期に引き戻されるとも語っています。(Grantland、2014年)
  • Matt は、Joy Division と古典古代に強く影響されたと話しています。収録曲「Foaming Love」には、神話のアフロディーテへの隠れた言及があるそうです。(OVRLD)

評価

発売当時(1994年)のレビューは、確認できませんでした。以下は後年の評価です。

  • Las Vegas Sun(2004年):バンドへの最良の入門盤としています。じわじわ高まる強さと、浮かぶようなボーカルが特徴で、「Bedside Table」には爆発的な終盤があると書いています。
  • Grantland(Chris Ryan、2014年):捨て曲がなく、90年代屈指のアルバムのひとつになりうる、という高い評価です。記事の主題は、口コミで広がったファンのあり方です。
  • Austin Chronicle(Doug Freeman、2014年):3枚のアルバムは進歩の記録というより、最初から研ぎ澄まされていたひとつの美学を示すもの、としています。
  • Record Collector(Joe Shooman):デビュー作はシューゲイズ、The Velvet Underground、マスロックの原型のような要素を混ぜている、と評しています。
  • Exclaim!(Daniel Sylvester、2014年):当時は好評だったのに、90年代の偉大なインディーロックの議論からほぼ外されてきた忘れられたバンド、としています。Mogwai や Beach House への影響にも触れています。
  • Orlando Weekly(Jason Ferguson、2014年):既存のインディーロックを遅くしただけではなく、その空間でしか成り立たない曲を書いた、と評しています。
  • Pitchfork(2014年):ボックスセット『1992–1998』を Best New Reissue に選んでいます。(Wikipedia 経由で確認)

出典

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